衣服と空間
本計画は、ダダイズムをコンセプトにもつファッションブランドの店舗設計である。ダダイズムの中にある偶然性や非日常性という考え方から ファッションとインテリアが常識や機能といった意図を超えて重なり合うような、驚きと意外性のあるショップをイメージした。閑静な南青山のブランドショップが立ち並ぶ通りに、突然割れたガラスウィンドウが現れる。まるで先ほど割られたかのような生々しさと見慣れた街並とは明らかに異質の状況に、戸惑いながら目を奪われる。店舗は二つの顔をもち、一方は壁から無数に突き出したハンガーパイプに衣服が無造作掛かり、対面では繊維が引き延ばされたような壁面をバックに靴やアクセサリーが整然と並んでいる。ひとつの店舗でありながら、大胆さと繊細さを併せ持ったファ
サードとなっている。パイプの突き刺さったガラス壁、粉砕された鏡、壁を引きはがしたような什器。これらある瞬間の動きを切り取ったかのようなインテリアの中に衣服が掛けられ、トルソーが立ち並でいる。ブランドイメージの攻撃的かつ独創的な衣服は、強烈に主張する空間の中を自分の意思で浮遊しているかのようにも見える。この店舗空間において、衣服と建築はお互いに関係しあいながら世界(空間)をつくり出しており、商品のレイアウトに合わせて外部と内部の印象も変化していく。割れたガラスウィンドウ、異なる仕上げの壁や天井、部屋の中に浮遊する服。これら別々の状況をコラージュした空間は、常識を超えてリアリティを持ち始め、衣服と建築の新たな関係性を生みだしているのではないだろうか。